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小劇場中心。今後が期待される劇団を発掘

森元 隆樹

(公財)三鷹市スポーツと文化財団 副主幹/演劇企画員

『裏切りの街』

本作の作・演出である三浦大輔が率いるポツドールの舞台を初めて観たのは2000年頃の王子小劇場であり、当時ポツドールは「セミドキュメント」と呼ばれる作劇スタイルの真っ只中であった。セミドキュメント第2弾にあたる『身体検査』(2001年)においては、劇団のホームページに 『「演技をしない」「恥をさらす」「プライベートをさらけ出す」この3つをテーマに、役者が舞台上に自分自身として上がり、60分間で実際にドキュメンタリーをつくりあげる。』 と記されているが、ご覧になっていない方の想像力がどのような膨らみを見せているかは別として、「息が詰まる」とはまさにこのことのような舞台が展開され、終演後の電車の中で静かに反芻するのがやっとだった。 その三浦大輔とポツドールが、人が隠しておきたかった心の奥底と手を握るというエッセンスはそのままに、セミドキュメントの手法を捨て、完成された脚本によって上演した舞台が『男の夢』(2002年/下北沢駅前劇場)であった。その脚本はキレッキレで、演出も冴えまくり、役者も皆素晴らしかった。不勉強ながら、セミドキュメント時代以前のポツドール作品を拝見したことがなかった私は、三浦大輔が「極めて鋭いセリフを書くことができる作家である」ことを目の当たりにし、セミドキュメントの手法を経て「どんな状況で、どんな展開が起ころうとも、役者は普通に舞台に立ち続け、上演を成立させ続ける」ことを自然な免疫力として体に取り込んだ役者たちの、舞台上の佇まいの素晴らしさに、心から感嘆したことを覚えている。 その後も、数々の傑作を生み続け、2005年上演の『愛の渦』(新宿THEATER/TOPS)で、第50回岸田國士戯曲賞を受賞するなど、注目を集め続けた三浦大輔とポツドール。その三浦が、2010年に書き下ろし、パルコ劇場で上演された作品が『裏切りの街』であり、コロナ禍での上演中止(2020年5月~6月)の憂き目を経て、12年ぶりの再演の時を迎える。 一見、特異なシチュエーションに見せて、その実、どこにでも、そして誰にでも起こり得る人生のひとかけらを、汚れることを嫌う両手で掬い上げ、漏れ落ちていく水の塊を薄笑いで見つめ続けるかのような、三浦戯曲の底知れなさが全編を覆う。そして、湿っているはずなのに乾きを感じて止まない舞台全体の閉塞感を導く演出力と、その意を汲む魅力的な役者たち。 同じセリフが、観客それぞれの本能によって様々に屈折し、角度を変えていく。 三浦ワールドの余韻に、どっぷりと浸りたい。

22/3/2(水)

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