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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

ワン・セカンド 永遠の24フレーム

国家的事業の尖兵としての名声は高まったが、映画監督としては「終わった感」が漂うチャン・イーモウ。ゆえに4年ぶりに接する本作を恐る恐る観始めたが、砂漠から始まり砂漠で終る映画愛に充ちた物語と演出の冴えに、「巨匠復活!」を感じた。 「青春時代の思い出をつなぎ合わせた、映画へのラブレターのような作品」とイーモウ監督自身が語る本作の背景は、1970年頃の文化大革命時代の陝西省。舞台は砂漠と寒村の映画館だ。フィルムの中にたった1秒だけ映し出されているという娘の姿を見ようとする父親(チャン・イー)と、幼い弟との貧しい暮らしを懸命に生きている孤独な少女(リウ・ハオツン)、映画館主で映写技師(ファン・ウェイ)。運命的に出会ったその3人の人生は、フィルムを媒介にして思いがけない方向へと進んでいく……という物語。 文化大革命当時、下放された陝西省の工場で働いていたイーモウ監督は、独学で映画を学んだ。演出と撮影技術、フィルムの洗い方、乾かし方などなど。本作では彼のそうした体験が、観る者を豊饒な映画的世界へと導いていく。また娯楽のない寒村で巡回上映を楽しみに待ち続けた観客たちが、上映前のスクリーンに鶏や犬を放り投げるシーンからは映画だけが持ちうる興奮と至福感が伝わってくる。 そう、本作には『紅いコーリャン』(1987)や『秋菊の物語』(92)を作っていたころのチャン・イーモウの生き生き溌溂とした新人時代の息吹があふれているのだ。これからはイベント演出などに関わらず、どしどし映画を撮ってほしいと思わずにはいられない傑作だった。

22/5/16(月)

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