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植草 信和
フリー編集者(元キネマ旬報編集長)
オフィサー・アンド・スパイ
22/6/3(金)
TOHOシネマズ シャンテ
106歳まで現役監督を貫いたマノエル・デ・オリベイラは別格として、現在の最高齢現役監督は91歳のC・イーストウッド、J=L・ゴダール、山田洋次。次に続くのが88歳のロマン・ポランスキーだ。キャリア的には彼らに及ばないものの、ポランスキーの悲劇的な半生は、言語に絶する。祖国ポーランドでのユダヤ人ゲットーに収容された幼少期、タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で描かれた、妊娠中の彼の愛妻シャロン・テイトが狂信家グループに惨殺された事件などなど。 そのポランスキーの最新作が『オフィサー・アンド・スパイ』。舞台は1894年、フランス。ユダヤ系フランス陸軍大尉ドレフュス(ルイ・ガレル)が、ドイツに軍事機密を流したスパイ容疑で終身刑を宣告される。ところが対敵情報活動を率いるピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)は、ドレフュスの無実を示す衝撃的な証拠を発見。再審を求める彼の前に、隠蔽をもくろむ国家権力や反ユダヤ勢力が立ち塞がる。 小説家エミール・ゾラやフランス知識人らが弾劾運動を展開し、政治的大事件となった“ドレフュス事件”を題材にしている。事実が軽視されフェイクがまかり通る“アンチ真実”の現代だからこそ、ポランスキーが挑まなければならなかった題材だったと思う。国家権力とメディアに迫害され続けた彼の半生と無実のドレフュスが重なるからだ。『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012)を再見しつつ観たい、第76回ベネチア国際映画祭銀獅子賞(審査員グランプリ)受賞作だ。
22/4/20(水)