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水先案内人のおすすめ

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歌舞伎、文楽…伝統芸能はカッコいい!

五十川 晶子

フリー編集者、ライター

令和4年5月文楽公演

第一部『義経千本桜』「河連法眼館の段」 人形浄瑠璃文楽の太夫で人間国宝の豊竹咲太夫が、昨年の文化功労者として顕彰された。その記念の公演が上演される。第一部は『義経千本桜』。義経の家臣で、静御前の供を命じられた佐藤忠信の物語を中心に上演される。 咲太夫が語るのはこの四段目河連法眼館の段。通称「四の切」。製作発表で咲太夫は、マクラ(人物の登場前に語られる情景の説明部分)はどの浄瑠璃でも難しいが、特にこの「四の切」は難しいという。 「吉野山の奥の千本から蔵王堂の方を見たら、満開の桜の中に、パッ、パッ、と、その辺から狐が顔を出すんじゃないか、そんな風景、ファンタジックなものが出れば、そこからは技術でやれるのですが」 歌舞伎の「四の切」もとてもファンタジックなのだが、人形浄瑠璃になるとやはり本行、輪をかけてファンタジックになる。後半、舞台下手に鳴物さんも現れ、静御前が鼓を打つのに合わせて鼓を打つのも楽しい。 静は鼓を打ちながら、いつ忠信が現れるかあちこちをいぶかしげに怖々とみている。歌舞伎なら、揚幕の向こうから「出があるよ!」と声がかかった瞬間、中央の三段がパタンと開いて中から忠信が現れる。文楽では鳴物さんが鼓を打ち終え隣にある黒い塗りの箱に鼓を収め、布をひらりとかぶせたかと思うと、その鼓を打ち破って真っ白な狐が現れるという寸法。鳴物さんが驚いた芝居をして引っ込むのも面白い。 狐を遣っているのは同じく白に火焔文様の衣裳の桐竹勘十郎。狐の周りに狐火が灯っているかのようだ。そして早替りで忠信の姿の人形に持ち替えて再登場する。 静の持つ鼓が鳴ると、全身で反応してしまう忠信。だんだん人ならぬ物感が出てくる。これは人形ならではだ。静に詰め寄られると忠信は姿を消し、再び早替りで黒地に源氏車の衣裳で現れる。同じく勘十郎の衣裳も火焔から桜色の着物になる。 実はここに至るまでに狐忠信の首(かしら)が何度も替わっているのだ。「伏見稲荷」から「道行」で用いられるのは源太(げんだ)の首、「四の切」になり狐の形状となった後、早替りの忠信の姿で現れるときは検非違使(けんびし)。ちなみに本物の方の忠信”ほんただ”も検非違使の首だ。そして再び衣裳を替えて現れた狐忠信の首は孔明(こうめい)で、砥の粉を混ぜた色の顔となり、一層狐っぽい様相となる。さらに静に「さてはそなたは狐じゃな」と咎められ、また早替りで白地に火焔柄文様の衣裳となり、鬢の毛はほつれ、人間にはできないダイナミックな動きをする。 歌舞伎では幕切れに狐忠信が宙乗りをする型があるが、文楽でも忠信の人形を遣う勘十郎ごと宙乗りとなる。法眼館がせり下がり、桜満開の吉野山の遠景の中、狐忠信はどこまでも跳んでゆく。 何段階にも変化(へんげ)していく狐忠信。そして人形ならではの跳躍感ある動き。ぜひ劇場で体感してほしい。

22/4/24(日)

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