マイ・ニューヨーク・ダイアリー
『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』 9232-2437 Quebec Inc - Parallel Films (Salinger) Dac (C) 2020 All rights reserved.
1990年代ニューヨークの出版業界に飛び込んだ作家志望の女性の成長記。まず、主演のマーガレット・クアリーの表情に目が留まる。「にっこり」という言葉を形にしたような口元、上目遣いの目。まだ何者でもない自分を何とかしたい気持ちが伝わってくる。シガニー・ウィーバーが演じるボスとの関係は、『プラダを着た悪魔』でのアン・ハサウェイとメリル・ストリープのそれにたとえられてもいるが、確かにクアリーもハサウェイが見せた「インターン顔」を踏襲している。ただ、明るいファニーフェイスのハサウェイに比べ、クアリーは体つきも含めて、青く内にこもった感じで、それが独特の面白さをこの映画に与えている。ベテラン出版エージェントであるボスが担当する伝説の作家、サリンジャーと、心を共振させるのも、さもありなんと思わせる文学少女性があるのだ。彼女が放つ独特な味を目撃してみる価値、ありだ。
そんなクアリーをはじめ、古き良きニューヨーク出版界の雰囲気をたっぷりまとったウィーバーとコルム・フィオール、サリンジャーファンの若者役で『17歳の瞳に映る世界』でも印象的な演技を見せたセオドア・ペレリンなど、登場人物ひとりひとりの存在感がものをいう映画。ひとりひとりのキャラクターや主人公自身の内なる文学性がもう少し掘り下げられていれば、言うことなしだったけれど、回想の人間図鑑としてはなかなかたのしい一本だ。