中年の女性が、夫とふたりの子供を置いて家を出るフランス映画、に見える、少なくとも最初は。監督のマチュー・アマルリック(俳優でもある)が「ネタバレをしないように」と釘を刺しているようなので、これ以上話の筋を追うことは避けるが、舞台はフランスからスペインの港町や山岳地帯などの美しい景色の中に移っていく。幼い娘が弾くピアノがひとつのキーになっていて、(これはネタバレかな?)マルタ・アルゲリッチのドキュメンタリー映画がそれを一層際立たせている。アルゲリッチは最近も来日したが、すごいピアニストで、ちょっと見ただけでもその存在感に圧倒される。娘の弾くピアノもチャーミングだった。かなり初期の段階から、なんだかわけのわからない状態が続くが、決して退屈ではない。これはある種の心象表現でもあり、文学的な幻想映画でもあるのかもしれない。こういう作り方は、小説でも舞台でもできない、映画でしか成立しない手法なのかもしれないと、見ながら考えていた。ちょっとお薦めです。