よだかの片想い
『よだかの片想い』 (C)島本理生/集英社 (C)2021 映画「よだかの片想い」製作委員会
監督は、少女の不安定さを虚構に託した異色作『Dressing Up』の安川有果。脚本はいまや毎月1本のペースで、監督作が公開されている売れっ子の城定秀夫が担当。
顔にアザのあるアイコ(松井玲奈)。長年、控えめに生きてきたが、「顔にアザやケガのある人」をテーマにした本の取材を受け、思い切って表紙を飾った。映画監督の飛坂(中島歩)はアイコに興味を持ち、二人は急速に距離を縮めていく。
アイコは冷静で凛とした女性だ。しかし恋愛関係に不安を感じたり、彼に「今会いたい」という強い感情を覚えたりする。それは、本当に誰しもが経験する、普通の恋の情緒だ。映画は彼女がなんとか気持ちを抑制して、みずからを鎮める姿を描く。アイコは愛に心を突き動かされながらも、見苦しさに至らないギリギリの自制がある。
その凛とした佇まい、普通に恋愛感情に身を浸す姿勢、みずからを貶めない決心。そんなアイコの姿にひどく感銘を受けた。
ラストの屋上の長回しのダンスが素晴らしい。アイコと友人が夕陽の中で舞い、流れるように一瞬すべてが停止してアイコが夕陽を指す。それがよだかの星であるのかもしれない。そしてまた自然と踊りに戻っていく、揺れるワンカットに泣く。