最近は韓国の犯罪映画というだけで、「必ず観よう」という気にさせてくれる。それは、「なんらかの面白さを提供してくれるだろう」という、期待感──という以上に、信頼感や安心感があるからだ。
それだけ、良質の作品が規模の大小を問わず、次々と日本で公開されている。
そして本作も、その信頼に見事に応えてくれた。
映画スターが拉致され、犯人たちは大金を引き出そうとする。彼らは要求に沿わなかったカフェ店主を既に残酷に殺害しているため、一つ間違えばスターもそうなりかねない。
この状況からいかに脱するかが、物語主軸となる。
本作がユニークなのは、スターの対抗手段だ。それは持ち前の演技力。虚実を巧みに使い分けた言動をもって、犯人たちを翻弄していく。自身の役を演じるファン・ジョンミンの卓越した芝居が、この設定に説得力を与えていた。
だが、敵も一筋縄ではいかない。
心理戦に銃撃戦にカーチェイス。さまざまな娯楽要素を盛り込んで、90分超の上映時間は、最後まで緊迫感を保ちつつ怒涛の勢いで進む。
ピル・カムソン監督は本作が最初の長編映画という。それでいて、このクオリティ、この完成度。演出だけでなく、抜群の着想に二転三転する展開の構成力からして、脚本家としても申し分ない。
一級のエンタテイナーたる新人が、次から次へ、しかも当然のように現れる韓国映画界──ただただ恐れ入る。