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吉田 伊知郎

1978年生まれ 映画評論家

第44回ぴあフィルムフェスティバル2022

『ポラン』 「第44回ぴあフィルムフェスティバル」国立映画アーカイブ(9/10〜25=上映終了)・京都文化博物館(11月開催予定)で上映                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 DOKUSO映画館/U-NEXT で配信(9/10~10/31) 先ごろ東京での上映が終了した「PFFアワード2022」のなかで、個人的に強く印象に残ったのが、〈場所の記憶〉をめぐる映画たちだった。そのなかでも、大泉学園駅からほど近い場所にあるポラン書房の閉店までの数日と、その後を描いたドキュメンタリー『ポラン』が忘れがたい。 ポラン書房は個人経営の古書店としては広い店舗で、各ジャンルをまんべんなく取り揃える理想的な店だった。といっても、筆者は大泉の撮影所や映画館の帰りに何度か立ち寄った記憶がある程度だが、店を出るときは映画関係の本をいつも手にしていた憶えがあるから、行けばなにかを買える店だった。 昨年の2月7日、ポラン書房は閉店した。新型コロナウィルスによる休業が大きな打撃となり、店賃の問題や、共同経営者である店主の妻の体力的な限界が重なったことが理由だが、そうした過程を感傷的に描こうとせず、閉店へいたる日々を静かに、そしてほどよい距離感で描いているのが好ましい。 経営者のふたりは学園闘争を経て学習塾をひらき、そこから古書店経営に転じる。店を徐々に大きくし、やがて現在の場所に店をひらくようになった。そうした過去を、当事者たちの言葉でさりげなく語らせるだけで、それ以上は深入りしない。常連客数人の言葉も映されるが、過剰さがなく、ごく自然に店への親しみを語る。ことほどさように過去へ傾注したり、店を神聖視するのではなく、現在進行系の視点を崩さずに、閉店の前日であろうと棚の補充にも余念がないポラン書房の最後の時間を丹念に映し出すことで、この店に行ったことがなくとも、〈場の喪失〉を実感できる。 作り方によってはエモーショナルな構成にすることも可能な内容を、描くべきものだけを抽出した抑制された映画へと昇華させた『ポラン』は、映画ファンだけでなく、本好きの方にもぜひ観てほしい珠玉の1本だ。

22/9/29(木)

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