診察した段階ですい臓がんのステージ4、既に治療での回復が見込めないと判明した男の、最期の日々が綴られていく。
いくらでもお涙頂戴にもっていける設定だが、安易にそちらに流れることなく、抑制した演出を通したことに好感が持てた。淡々とした静かなタッチでありながら、その奥底からじんわりとした温かみを感じられる作品だった。
まず、担当医のキャラクターが良い。全てを患者に隠すことなく伝え、状況ときちんと向き合わせる。その上で、どこまでも患者に寄り添う。この、合理的な現実主義に裏打ちされながらも、徹底した優しさに貫かれている……という彼のスタンスが、作品全体、あるいは観客も含めた「死」と対峙しなければならない全ての人々への救いとなっていた。
実在のがん専門医が演じているということだが、自身に近い役柄を演じるのは、かえって大変なことだ。プロの俳優でも難しいことを見事にやっており、その厳然としながは包容力あふれる眼差しには、当事者性だけでは片付けられない、確たる演技力を感じることができた。
また、主人公の母親役のカトリーヌ・ドヌーブも絶品。彼女ならではの大女優然とした貫禄や輝きを全て封印、等身大の母親像を表現している。
悔恨と赦し。死を眼前にしながらそれらと懸命に向き合う人々のドラマが、胸を打つ。