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水先案内人のおすすめ

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芸術・歴史的に必見の映画、映画展を紹介

岡田 秀則

国立映画アーカイブ主任研究員

たまねこ、たまびと

多摩川の河川敷に飼い猫を平気で棄てる人間がいる。野生では生きられない猫たちは飢えや暴力にさらされる。耳の欠損した猫、隻眼の猫、生来の障がいでまっすぐ歩けない猫…私たちが日頃ほとんど見ない猫たちだ。生き残った猫たちを辛うじて守るのは川べりのホームレスの人たちと、長らく救猫活動に携わってきた小西夫妻、そしてどこからともなく現れる協力者たちである。 野生の暮らしを強いられる猫を、それぞれの尊厳を感じさせるまでに撮影するには、並々でない忍耐が要るだろうし、ちょっとやそっとのフットワークではできない。だが映像を見る限り、そんな苦心など微塵も感じさせないのが、前作『東京干潟』や『蟹の惑星』にも共通する村上浩康監督の撮影術だ。 『東京干潟』の中でも、ホームレスのおじいさんが自分の食費を削ってでも捨て猫を守っていたが、あの険しい顔の猫たちが今回の主役になった。社会の周縁に生きる人たちが最弱者たる生き物を救う、その構図を直視することにおいて、ここまで猫への愛情に貫かれた記録映画は少ないだろう。写真家である小西さんの自然体のインタビューもいい。日頃は「ストップ動物虐待」のTシャツを着ているが、サンタナ、アメリカの黒人女性議員、コダック社、新宿駅のカフェ「ベルク」など、さりげないTシャツ活動も見逃せない。 猫たちの傷ついた姿を通して、人間のどす黒い部分に直面する映画だ。だが、犬と違って猫は人になつかないなどとよく言われるが、ここでの猫たちは、自分らを守る人間は認識してしっかりと後をついてゆく。長く多摩川べりをすみかにし、生きることの厳粛さを凝縮したような老猫ミータン(28歳まで生きたという)の魂の鳴き声を、ぜひスクリーンの前で聴いていただきたい。

22/11/7(月)

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