廃墟マニア、ネコ好きにとってはたまらない映画かもしれない。
しかし、本質は東日本大震災の震災孤児を描いた、「震災文学」に位置づけられる。『君の名は。』『天気の子』も、東日本大震災を意識させる作品だったが、『すずめの戸締まり』において、新海誠はついに、正面から震災を描いたのだ。それは被災者の哀しみに決着がついていないという、訴えの形をとる。
といって、小難しい映画ではない。
いつもながらの、息もつかせぬスピーディーな展開のジェットコースター型ムービーだ。緻密で美しい背景、アニメならではの壮大なアクション、息抜き的に笑いも入る緩急自在にも、ますます磨きがかかっている。
震災そのものの描写は間接的で、震災から12年後の日本が舞台。回想として、3.11以後が描かれる。
主人公のすずめは17歳の高校2年生。4歳で震災を経験し、母を失くして叔母に引き取られ、宮崎で暮らしている。「お義母さん」でも「叔母さん」でもなく、名前で「環(たまき)さん」と呼ぶ、そんな距離感。この疑似母娘の衝突と和解のドラマでもある。衝突するからこそ、和解がある。
すずめがある青年とすれちがったことから、物語は始まる。
少女が災害から日本を救うという点では、前作と同じだが、すずめに超能力的なものがあるわけではない。
すずめは、ネコを追いかけて、宮崎から愛媛、新神戸、そして東京・御茶ノ水と旅し、最後はかつて暮らしていた家のあった宮城まで行く。
映画の大半はロードムービーで、その度のお供となるのが、椅子にさせられた青年。旅のBGMはユーミンの『ルージュの伝言』、松田聖子の『SWEET MEMORIES』や、斉藤由貴の『卒業』など、70年代、80年代の曲で、私の世代には懐かしい。
ロードムービーなので、行く先々にすずめを助けてくれる印象的な女性たちが登場する。
そして彼女が行く所では必ず、大きな災害が起こりかける。それは、震災後、故郷を離れて日本各地で暮らしている被災者たちの怒りや悲しみのメタファーなのかもしれない。
震災を忘れてしまったかのようないまの日本への、作者の怒りが根底にある。