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水先案内人のおすすめ

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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

丘の上の本屋さん

朝ドラ『舞いあがれ!』では、古本屋の店主と子どもたちの交流が描かれていたが、この映画も、店主ひとりの古本屋が舞台だ。 古本屋と普通の本屋の違いは、本を買う人だけでなく、売る人も来ること。さらに、この映画では、本を借りに来る少年も出てくる。本を買える経済的余裕のなさそうな少年に、店主は、その子が読むべき本を選び、それを貸すのだ。これは、新刊書店ではできないこと。 この少年以外にも、隣のカフェの青年やそのガールフレンド、自分が過去に出した本を探している教授とか、ヒトラーの『我が闘争』を求めている青年とか、常連客が出入りする。 映画の冒頭に、『グランドホテル』が語られるが、まさに映画『グランドホテル』のように、さまざまな人生が狭い古書店で交錯していく。何人もの人生の描き方が巧み。 少年が本を返しにくると、店主は感想をきいて、次の本を貸す。そのやりとりは、詳しくは描かれない。ブックガイド映画ではないのだ。だから、延々と文学談義がなされるわけではない。そこが、いさぎよい。 その本は、マンガに始まり、童話、小説、伝記とさまざま。店主の選択に長期的な意図があるのか、その場で適当に選んでいるのかは分からない。 だいたい古本屋というのは無口なものだが、この映画の店主も口数は少ない。映画全体も寡黙で、その静謐が心地よい。 店主が病院へ検査に行くところから始まるので、その後の展開も見えているが、しめっぽくない。まさにイタリアの陽光のように明るい。

23/2/17(金)

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