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芸術・歴史的に必見の映画、映画展を紹介

岡田 秀則

国立映画アーカイブ主任研究員

キャラクターデザインの先駆者 土方重巳の世界

画家でデザイナーの土方重巳は、名は広く知られなくともその仕事はよく知られている。人形劇の人形デザインや企業のマスコットを造形し、何といってもNHKの人形劇「ブーフーウー」や、薬局の店頭にいる佐藤製薬の仔象「サトちゃん」の生みの親である。 それだけではない。若い頃は映画会社の東宝に属し、戦前から戦後すぐまで映画ポスターなどのデザインや挿画に携わった。まだポスターに写真を使わず、画家が描いていた時代である。フランス映画などのポスターも多く手がけ、マルセル・カルネの『北ホテル』やソ連映画『石の花』の色使いなどはため息が出るほどの優美さだ。 その後は愛らしい人形や動物キャラクターに軸足を移すが、その絵を一つ一つ眺めていると、土方が大切にしてきた「童心」がひしひしと感じられる。戦後盛んに出版された人形絵本はしばしば外国版も出たが、土方の絵から生まれた日本製のピノッキオ(人形はかの川本喜八郎が作った)が写った『ピノッキオ』がイタリアの名門モンダドーリ社から出たのだから驚く。 土方は1986年に死去したが、近年になってご遺族が大量の資料や作品を保管していたことが判明、クラシックな映画ポスターの顕彰活動で知られる「古き良き文化を継承する会」の力でついに展覧会が実現した。2018年に兵庫県西宮、2019年に愛知県刈谷で開催されたが、今回ついに首都圏にお目見えとなる。前二つの展示は「グラフィックデザイナー 土方重巳の世界」だったが、今回は副題が「キャラクターデザインの先駆者」に差し替えられている。よって映画関連の展示点数はやや少なめだが、それでも代表作はしっかり公開されている。土方の仕事は、ポスター画であれキャラクターであれ、何もかもが心温まるものだ。「童心」がまっすぐに信じられた時代の小さな宝石たちに出会える好機だろう。4月9日まで。

23/3/12(日)

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