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水先案内人のおすすめ

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歌舞伎、文楽…伝統芸能はカッコいい!

五十川 晶子

フリー編集者、ライター

明治座創業百五十周年記念『壽祝桜四月大歌舞伎』

人形町という江戸の面影が随所に残る街に佇む明治座が創業から150年を迎える。その記念すべき春に上演される狂言の一つが『義経千本桜 鳥居前』の一幕だ。 兄源頼朝に謀反の疑いをかけられた義経は都落ちを余儀なくされる。その義経を追って愛妾の静御前が伏見稲荷へやってくる。だが女を同道することはできないと言われてしまう静。 一方前段の『堀川館』では、義経の居る堀川館に土佐坊ら鎌倉方の軍勢が押し寄せ、武蔵坊弁慶が彼らに挑発されてしまい、義経が鎌倉方に弓引いた形となってしまった、という状況が描かれる。 そのため義経から難詰された弁慶も同道させてもらえないはずだった。しかし家来の佐藤忠信が出羽へ帰郷してしまっており、静のとりなしもあってしかたなく同道を許される。 義経は後白河法皇から戴いた初音の鼓を静に形見として渡す。そして静を道端の木にくくって後を追ってこないようにしてしまう。 嘆き悲しむ静は、土佐坊の家来の早見藤太に狙われてしまうが、なぜかそこへ出羽へ帰っていたはずの忠信が現れ静を救う。義経は忠信の手柄に、自らの着背長の鎧と源九郎の名を与え、静をたくす。 この忠信が後の「吉野山」や「四の切」に登場する狐忠信。ここでは荒事の扮装で現れる。火焔隈、化粧襷、菱皮の鬘に四天というこしらえ。狐六方とよばれる、手足や体の形がどこか獣を思わせる独特の形で花道を引っ込んでいく。 この一幕の主人公が忠信であることは間違いないのだが、タイトルロールである義経の描かれ方も興味深い。『熊谷陣屋』などで描かれる人生絶頂期の義経とは違って追われている身だ。御曹司という雰囲気をまといながらも、余裕がなくどこかイライラとした空気を漂わせている。と同時に弁慶も『勧進帳』のカリスマ的な存在感とは違う一面を覗かせる。二役とも妙に人間臭いところが見逃せない。 義経に静に弁慶という人気キャラクターが揃い、忠信の荒事、藤太のチャリ場も楽しめる、時代物狂言の楽しみが詰まった一幕だ。

23/3/28(火)

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