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水先案内人のおすすめ

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小さくとも内容の豊かな展覧会を紹介

白坂 由里

アートライター

加茂昂 惑星としての土/復興としての土

除染された田畑と十字架のような杭、その向こうに見える空き家。福島の除染とは、表層の土を10センチ削り取り、中間貯蔵施設に運ぶ、いわば「移染」と言っていい。自然界の土は1センチ堆積するのに100年かかるとも言われ、田畑にとって栄養素が溜まるその10センチを失うことは1000年分の歴史を失うことだとも言える。 福島に滞在して目にした光景を描くために、自らも土を作ることから始めた画家の加茂昂。コロナ禍中の畑仕事から発想し、自ら約半年かけて堆肥を作り、細かくすり潰してパステルや油絵具を作りあげた。紙コップ1杯分を作るのに半日かかり、絵を描くには50杯くらい必要だったという。熱で滅菌処理しているので匂いはなく、実際に画面を見るとまさに土のような物質感があり、描く技術と相まって尊い美しさがあった。 また、卵の殻を砕いて白い顔料も制作。作物を育てるように手間暇かけた絵画である。2点の大きめの絵画を見比べると、土の色が少し異なって見える。土というものは実際にそれぞれ色が違うので、リアリティを感じる。また、ドローイングでは、和紙の繊維が土の中に張り巡らせた根っこのように見える。「土」は人間を確と(しっかと)立たせる足であり、絵画もその意思を見せて立っているかのようだ。農民に敬意を抱いていたゴッホが「土くれや麦が自分の友達だ」と書いていたことを思い出す。絵画を描くことを通じて他者の経験の重みを少しでも身に浸透させ、社会に循環させるような作品だ。

23/4/1(土)

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