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TAR/ター

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崇高な、と呼ぶしかない女優が21世紀に何人いるというのだろう。ケイト・ブランシェットは、その数少ないひとりである。 最近、引退を示唆したことも話題になっているこのオーストラリア人は、『エリザベス』『アビエイター』『ブルー・ジャスミン』そして『キャロル』と、ごく僅かのタイトルを並べるだけで、唯一無二の冷徹な肌触りの存在感がこちらに突進してくる。有無を言わさぬ迫力を持つ演じ手である。 彼女をイメージして書き下ろされ、彼女に捧げられ、ひょっとすると彼女の最後の演技になるかもしれぬ本作は、生ぬるい感傷とは一切無縁の、まさに“ケイト・ブランシェット”と呼ぶしかない非情さに貫かれた鋼のような映画だ。 ケイト同様、世界的名声のトップに君臨する女性指揮者。誇り高く、気位も高く、妥協せず、迷いなく、芸術のために突き進む彼女が、あるフェイクニュースによって転落していく。 まさかまさかの成り行きに、わたしたちは呆然とする。だが、それは、この謀略の主犯が突き止められないからではない。ケイトが、堕ちながらも、崇高さを決して手放さず、“気高い落下”という矛盾した情緒に直面させるからである。そこに理由は、ない。ただ、ケイト・ブランシェット……とため息をつけばそれでよい。 人間の綻びをチラ見せするような下品な真似はしない。ありきたりの多面体を演出するわけでもない。ただ、己を築き上げてきた諸々の事柄から“復讐”される時、決して被害者面はしないという彼女ならではの矜持が、ごくごく当たり前に全身に脈打っている。 どのシーンも完璧だ。暗喩も予兆も払いのけて、彼女は彼女として、そこにいる。どんな悲劇も、ケイトの威風堂々の前では、弱々しい。だからこそ、とんでもない結末が待っている。 驚くべきラストを目撃する時、あなたは、ケイト・ブランシェットと呼ばれるタフな精神に、もう一度、打ちのめされるだろう。 この女優は、観る者をパンチドランカーにさせる。ケイトは、演技で観客を制圧する。もし、これが最後だとするなら、これ以上の有終の美もないだろう。 ケイト・ブランシェットの“勝利”を見届けろ。