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文学、ジャズ…知的映画セレクション

高崎 俊夫

フリー編集者、映画評論家

ネオレアリズモⅡ

シネマヴェーラ渋谷で7月8日から3週間にわたって「ネオレアリズモⅡ」特集が開催される。 戦後、まもなくロベルト・ロッセリーニの『無防備都市』(45)と『戦火のかなた』(46)、そしてヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』(48)、『靴みがき』が世界中の映画人に衝撃を与え、とりわけフランスのヌーヴェル・ヴァーグの映画作家たちにもっとも深い影響を与えたことは周知のとおりである。 今回の特集では、日本未公開のふたつの作品に注目したい。 一本目はロッセリーニの『十字架の男』(43)だ。映画監督としてデビューして間もないフランソワ・トリュフォーは「ロッセリーニとともに」というエッセイで、次のように書いている。 「結局のところ、ロッセリーニの最近の唯一のヒット作であった『ロベレ将軍』もはっきりと証明しているように、ロッセリーニの映画文体が大衆にも批評家にもうけいれられるのは、戦争のことを語るときだけなのである。それというのも、わたしたちは、戦争のなまなましい現実と暴力を<ニュース映画>で見なれているからにちがいない。」 『十字架の男』は、陸軍をテーマにしており、海軍を描く『白い船』(41)、空軍を描いた『ギリシャからの帰還』(42)と合わせて<戦争プロパガンダ三部作>と称される。 『十字架の男』では、ウクライナの農村を舞台にロシア赤軍とイタリア軍の苛烈な戦いが描かれるが、その酸鼻きわまりない戦闘シーンをロッセリーニは、まるで<ニュース映画>のように撮っているのだ。その迫真力たるや! 銃弾、砲弾が飛び交うなか、孤立した農家に敵味方の兵士たちと女性と子供たちが取り残され、一夜を過ごすシークエンスが圧巻だ。そこで、主人公である従軍司祭は、絶望に打ちひしがれた女たちの告解にも似た悲痛な言葉に耳を傾け、恩寵を説き、懸命に励ますのだが、結局は、死屍累々、すべては徒労に帰するほかない。ノンシャランな『神の道化師、フランチェスコ』(50)とは対照的な深い宗教性を帯びた隠れた傑作といえよう。 二本目はデ・シーカの『子供たちは見ている』(43)。同じ年にルキノ・ヴィスコンティが『郵便配達は二度ベルを鳴らす』がつくられているが、どちらも人妻の不貞を題材にしている。ヴィスコンティがジェームズ・М・ケインの原作の孕む不条理劇のような実存主義風なテーマをイタリアの風土に見事に置き換えたのに対して、デ・シーカは通俗性を遵守しながら、母親に棄てられた子供の視点から大人たちの身勝手な世界を冷徹に見つめている。それゆえに、かえって身もふたもない、その酷薄さが、なんともやりきれぬ後味を残す。 避暑地で、母親が愛人とふたたび密会している光景を目撃した主人公の少年が、絶望のあまりローマへと通じる線路をとぼとぼと歩いていると、画面の奥から列車が疾走してくる。この恐るべきシーンは、『ウンベルトD』(52)で、万策尽きてしまった主人公の老人が鉄道自殺を試みる場面を想起させずにはおかないだろう。

23/7/5(水)

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