Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

小さくとも内容の豊かな展覧会を紹介

白坂 由里

アートライター

うえののそこから「はじまり、はじまり」 荒木珠奈 展

現在、ニューヨークを拠点に活動している荒木珠奈の個展。90年代にメキシコで制作した銅版画から新作の大型インスタレーションまで、巨大な立体絵本を旅するような展覧会だ。ガイコツのモチーフなど、日常生活に生と死の概念が存在するメキシコの影響が色濃い銅版画は、懐かしくも新鮮な魅力。光と影、かわいらしさと毒気といった、相反する価値観が溶け合う。 小さな無数の箱が壁面に広がるインスタレーション《うち》では、南京錠をもらって扉を開けると、ほのかな灯の中に影絵のように描かれた景色が見える。こうした温かみのある参加型作品の一方、黒を基調とした不穏なインスタレーション《見えない》もある。後者は東日本大震災の後、目には見えないものへの不安を感じて制作した作品だ。 また、地下展示室では、上野の記憶をリサーチし抽象的に表現したインスタレーションを展開。鳥籠(ゲージ)のような大きな造形物の中に足を踏み入れることもできる。戊辰戦争、関東大震災などさまざまな歴史が行き過ぎる上野という土地を、飛び回る光や音でも表現。また、荒木には、メキシコとの国境に壁を作ろうとしたトランプ政治の不寛容さやコロナ禍でのロックダウンの不自由さも念頭にあったという。ただし、その黒い柵をぐいっとねじ曲げ、押し広げた“開放の形”が力強い。 最近は、渡米によって自身が移民になったこともあり、日本に住む外国にルーツを持つ子供の存在が気になるという荒木。ワークショップに参加した子供たちの自国の昔話をモチーフとした作品なども展示されていた。大人はもちろん、未来の鍵を握る子供たちにも体験してほしい。

23/8/9(水)

アプリで読む