『二重生活』や『スプリング・フィーバー』などの作品を通じて若者のさまざまな愛を描いてきたロウ・イエ監督が今回選んだのは太平洋戦争が始まる直前の1941年12月の上海を舞台にしたスパイ同士の物語です。
開戦前夜の上海には世界各国から諜報員が集まって来ます。中でも腕の立つスパイで人気女優という二つの顔を持つユー・ジン(コン・リー)には日本軍の暗号通信専門家の古谷(オダギリジョー)を標的とする指令が出ている一方、彼女自身も日本側からマークされ、ピリピリした空気に包まれています。そんな中、「蘭心大劇場」で銃撃戦が始まりますが、傷を負ったユー・ジンは目の前に倒れている瀕死の状態の古谷を仕留めようとはしません。大きな謎を残したまま銃撃戦は最高潮に達しますが……。
ド派手なアクションが無いにもかかわらず胸をドキドキさせられるのは魔都上海の空に鳴り響く銃撃音がモノクロの画面に見事に溶け込んで現実のことのように思えるからでしょうか。
ユー・ジン役のコン・リーが短銃を撃ち尽くした直後に弾を装填し直して次の攻撃に備える銃裁きも鮮やかです。ロウ・イエ監督のこだわりは随所に見ることが出来ますが、現存する築90年を超すモダンな蘭心大劇場でのロケも話題になっています。