鬼才デヴィッド・フィンチャーの最新作『ザ・キラー』が、わりとひっそりと公開されている。ひっそりなのはNetflixのオリジナル作品だからで、11月10日にはネット配信が開始されるのだが、完璧主義者フィンチャーのハイクオリティを劇場のスクリーンと音響で楽しまない手はない。とはいえオープニングクレジットの字がやたらと大きかったりして、フィンチャーは小さい画面で観ることの多い配信の視聴者も意識して作っているのかも知れない。
『ザ・キラー』はマイケル・ファスベンダー演じる殺し屋の物語だ。緻密に準備をし、ターゲットが現れるまで何日も見張り、鍛錬を怠らず、集中力を高めて最高のタイミングを待ち続ける。ストイックな仕事ぶりは長年の経験と鍛錬の賜物らしく、主人公はモノローグで仕事へのこだわりと人生哲学を語り続ける。「計画通りにやれ」「誰も信じるな」「即興はするな」「感情移入するな」「目立つな」。
ところが、なにかがおかしい。自分の成功率は十割だとうそぶきながら、この人結構ドジじゃないですか? 画面に映っているものと、モノローグで語られていることに微妙なズレを感じ始めると、仕事のBGMにザ・スミスばっかり聴いてることもなんだか可笑しくなってくる。考えたらフィンチャーが、パッと見通りのステレオタイプなキャラや映画を作るわけがない。完璧主義者の自嘲にも似た妙なユーモアが作品をドライブさせる、もはやジャンルの判別が不可能な快作にして怪作。