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演劇鑑賞年300本の目利き

大島 幸久

演劇ジャーナリスト

『ロスメルスホルム』

“近代演劇の父”と呼ばれ、『人形の家』で知られるノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセンだが、『ロスメルスホルム』は最も難解で複雑な戯曲と言えるだろう。しかし、19世紀後半の1886年に書かれた傑作でもある。 タイトルは200年以上続く名家の屋敷の名前。物語の主人公ヨハネス・ロスメルが所有している。妻ベアーテを自殺で亡くしている彼が抱く思想は近代人を象徴している、と思える。演じるのは森田剛(44)。 屋敷には下宿人レベッカと家政婦のヘルセットが住んでいる。レベッカは自殺したベアーテの兄・クロル教授の紹介によって雇われた。この女性がもうひとりの主人公。そもそも伝統的な家で育てられ保守的な主人に対し、前向きに生きようとさせて、自分こそが彼を自由な生き方にできると自負している。いわば保守VS進取。イプセンの主題が浮き上がってくる。演じるのは三浦透子(27)。 ふたりを静かに見守る家政婦ヘルセットは梅沢昌代。浅野雅博が扮するクロル教授が屋敷を訪ねることで物語は動き始める。また、進歩主義で急進派の新聞記者モルテンスゴール(谷田歩)らが絡んでいく。 とにかく台詞量が多い。肉欲、友愛、ジェンダーといった主題も内包されていて心理描写、後半の嵐のような台詞に圧倒されるだろう。 旧ジャニーズ事務所のOBとして演劇派の元V6の森田にとって苦手という翻訳劇、さらに鬼才・栗山民也の演出は挑戦でもある。舞台経験は少ないが声に不思議な魅力がある三浦。このレベッカがベアーテの自殺の原因か?『人形の家』や『ヘッダ・カブラー』は男女の愛の本質を抉っている。『ロスメルスホルム』は? 愛知、福岡、兵庫を回っての東京公演である。

23/11/11(土)

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