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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

枯れ葉

2017年、『希望のかなた』のプロモーション中に“映画監督引退”を宣言したアキ・カウリスマキ監督6年ぶりの、“最新作にして復帰作”である『枯れ葉』。その予告編にある、「引退撤回」のコピーに安堵すると同時に、タランティーノ監督もこれを前例にしてほしいと心底から願う。 いかにもカウリスマキ映画ならではのタイトル『枯れ葉』の舞台は、おなじみのフィンランドの首都ヘルシンキ。『パラダイスの夕暮れ』『真夜中の虹』『マッチ工場の少女』の労働者3部作に連なる“労働者4作目”とも位置づけらける本作は、孤独を抱えながら生きる男女の心優しいラブストーリー。 理不尽な理由で失業したアンサ(アルマ・ポウスティ)と、酒に溺れながらも工事現場で働くホラッパ(ユッシ・バタネン)の出会いから始まり、不運な偶然と過酷な現実がふたりを幸福から遠ざけてしまう、という物語。典型的な“中年版ボーイミーツガール映画”だが、全編に漂う巧まざるユーモア、ノスタルジックなヘルシンキの風景、自由自在な音楽の使い方、赤色の小道具の配置など、どの角度から見ても唯一無二、まごうかたなきカウリスマキ映画だ。 嬉しくなるシーンがたくさんある。ふたりが初めてのデートで観る映画が『デッド・ドント・ダイ』。盟友ジム・ジャームッシュへの優しい目配せが感じられる。一方ではホラッパの部屋のラジオからロシアによるウクライナ侵攻のニュースが流れるシーンでは、カウリスマキの悲痛な心境が伝わってきて気分が沈む。 戦争、異常気象、物価高騰などさまざまな不安に満ちている現代だが、ささやかな愛を求めて生きる男女へのいとおしさが切々と伝わってくる本作。「カウリスマキ監督、希望をありがとう」と言いたくなる傑作だ。 第76回カンヌ国際映画祭では審査員賞を、2023年国際批評家連盟賞で年間グランプリを受賞、第96回アカデミー賞国際長編映画賞のフィンランド代表にも選出されている。

23/11/20(月)

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