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Film Gris 赤狩り時代のフィルム・ノワール

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1940年代の後半から50年代にかけて、アメリカ全土で猛威を揮った<赤狩り>は、ハリウッドにも深甚なる影響を及ぼした。才能ある数多の映画人が失業したり、破滅に追いやられるケースが相次ぎ、追放を余儀なくされ、ヨーロッパに亡命する者もいた。 今回のシネマヴェーラ渋谷の特集「赤狩り時代のフィルム・ノワール」は<フィルム・グリ>と総称される「1947~1951年に撮られた、アメリカ社会に対する左翼的な批判を特徴とするフィルム・ノワールの分派」(トム・アンダーセン)の作品を集成したものである。ここでは、ドイツから亡命したベルトルト・ブレヒトと師弟関係を結んだ筋金入りの左翼知識人・映画作家であるジョセフ・ロージーの映画をピックアップして紹介したい。 ロージーのデビュー作『緑色の髪の少年』(1948)は両親を戦争で失い、一夜で髪の毛が緑色になってしまった主人公ディーン・ストックウェルにして、人種差別問題、さらに広島への原爆投下を批判する<反戦>のメッセージを忍ばせたファンタスティックな寓話。ナット・キング・コールが哀愁たっぷりに歌う「ネイチャー・ボーイ」がテーマソングで使われ、大ヒットした。 天才子役と言われたD・ストックウェルは、その後、鳴かず飛ばずの時期が長らく続いたが、突然変異のように、後年、『ブルーベルベット』(1986)のヘンタイ的な名演で鮮やかな復活を遂げたのは周知の通りである。 『暴力の街』(1950)は、ヒスパニック系と白人が対立する田舎町にやってきた新聞記者の視点を介して、ささいなきっかけから住民たちの憎悪がむき出しになり、暴徒化するマス・ヒステリアの恐怖を冷徹に描き出している。J・ロージーは、本作をめぐって「最も偏見に凝り固まった人間、最たる狂信者や人種差別主義者たちは、常に小さな町の出身者だ」と発言しているが、一面の真実には違いない。 『不審者』(1951)は、ストーカーものの元祖みたいな隠れたニューロティックな傑作。精神を病んだ悪徳警官(ヴァン・ヘフリン)が美しい人妻(当時、ジョン・ヒューストンの妻であったイヴリン・キース)に異様に執心するが、その途方もない愛欲の果てに現れる光景には呆然自失するほかはない。底知れない歪んだ性格破綻者を描くとき、ロージーの演出はもっとも冴えわたるのでないだろうか。まるでパトリシア・ハイスミスが微細に描き出したパラノイアックな狂人の肖像を見るようでもある。 『M』(1951)は、巨匠フリッツ・ラングのドイツ時代の代表作『M』のリメイクで、舞台をベルリンからLAに移している。ラング版で悲愴な永遠のアンチヒーローを演じたピーター・ローレとは対照的に、デヴィッド・ウェインが一見、凡庸なる風貌ながら、暗い性的倒錯者の兆候を垣間見せる主人公を好演している。ロージーはМを造型するにあたって、「私は彼を、母親に支配された、アメリカの低中産階級の物質社会が生み出した人間として見せたかった」と語っているが、その試みは充分に成功している。