アキ・カウリスマキの映画は、一度観ると中毒になる。独特の色彩設計、ちょっと外したユーモア、寡黙でミニマルなスタイルでいて濃密な味わい。メランコリックなトーンのなかにも限りない優しさがあり、心がほっこりさせられるのだ。
本作も期待に違わない。不当な理由でスーパーの職を失った女と、工事現場で働く大酒呑みの男が、行きつけのバーで出会うも、ともに無口のふたりの仲は、すんなりとは進まない。その危なっかしいやりとりに、カウリスマキ節が溢れる。
これはとても小さな世界の恋物語だ。だがその背景には、世界で起こっている戦争や、搾取などの辛い現実が見え隠れする。否むしろそんな環境のなかで、これほど純粋なラブストーリーが育まれるということにこそ、意味がある。なぜならそこには希望があるのだから。