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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

サン・セバスチャンへ、ようこそ

ウディ・アレンの近著『唐突ながら―ウディ・アレン自伝』(河出書房新社刊)は、#MeToo運動を牽引したアレンの息子、ローナン・ファロー(ワインスタインのセクハラ問題を追った『キャッチ・アンド・キル』の著者)の抗議によって一時期、出版中断に追い込まれた運命的な本。そこには元妻ミア・ファローとのいさかいの顛末も書かれていて興味深いのだが、どんなに重苦しい箇所にもユーモアをちりばめて読者を笑わせるサービス精神を忘れない、アレンならではの面白さ満載の“回想録”でもある。   そのウディ・アレン監督の最新作はフランスで2023年9月に公開された『クー・ドゥ・チャンス(Coup de Chance)』(原題)だが、本作『サン・セバスチャンへ、ようこそ』は、スペイン最大の国際映画祭であるサン・セバスチャン国際映画祭を舞台にした2020年の準最新作。妻の浮気を疑う大学教授が体験する不思議な映画体験と恋を描いた、いかにもアレン作品らしいコメディ。『それでも恋するバルセロナ』『ミッドナイト・イン・パリ』『ローマでアモーレ』などのヨーロッパを舞台にした系列の4作目で、キャッチコピーは「人生は映画のように、想定外」。

主人公はニューヨークの大学の映画学を専門とする教授で、売れない作家のモート・リフキン(ウォーレス・ショーン)。彼は、有名なフランス人監督フィリップの広報を担当している妻のスー(ジーナ・ガーション)に同行して、サン・セバスチャン映画祭にやってくる。妻とフィリップの浮気を疑っているモートが街を歩くと、フェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』の世界が突然目の前に現れる。さらに、イングマール・ベルイマン監督の『第七の封印』『仮面/ペルソナ』やルイス・ブニュエル監督『皆殺しの天使』、オーソン・ウェルズ監督『市民ケーン』、ジャン=リュック・ゴダール監督『勝手にしやがれ』のシーンが夢の中に現れるなど、映画オタクのアレン監督ならではの、“映画と人生”の物語。   88歳のアレン監督、本作の主人公モートという名前がフランス語で「Mort(=死)」を意味することは気にはなるが、年齢に負けずこれからもきな臭い現実を笑い飛ばすような映画をどんどん作ってほしいと真に思う。93歳のクリント・イーストウッドがまだ現役でがんばっているのだから。

24/1/17(水)

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