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アニメも含め時代を象徴する映画を紹介
堀 晃和
ライター(元産経新聞)、編集者
PERFECT DAYS
23/12/22(金)
TOHOシネマズ シャンテ
これは“東京物語”だ。冒頭のシーンにそう直感する。都市の俯瞰、畳の部屋、ローアングル。画面の縦横比は今では珍しいスタンダードサイズだ。2023年12月12日で生誕120年没後60年を迎えた小津安二郎監督の映画史に刻まれる名作とイメージが重なった。ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースが愛してやまない1本だ。 個人的な話だが、生涯ベストワンは2本あってこの35年間は変わっていない。ひとつがヴェンダースの代表作『パリ、テキサス』。そのクライマックスに比肩する感動を覚えた。安易に使いたくない表現だが、新作『PERFECT DAYS』は紛れもない傑作だ。 東京スカイツリーのお膝元・押上の古いアパートに独り暮らす平山(『東京物語』の主人公と同名、役所広司)は夜明け前に起きると、公衆トイレの清掃のため軽ワゴンで渋谷に向かう。夕刻までに帰宅し、自転車で銭湯に寄った後は浅草駅地下の居酒屋で一杯。夜は読書灯の下で本に目を落とす。削ぎ落とされた台詞のやり取り、端正な構図に、目に見えないはずの心模様が鮮やかに浮かび上がる。 ツボを押された場面があった。平山が“木漏れ日”を撮ったフィルムを持ち込む写真店の主人。ある分野で日本を代表する人物が演じていた。驚いた。
23/12/20(水)