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クールビューティー 小山明子

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1960年以降、大島渚監督の絶大なるパートナーとして、多くの傑作、問題作に出演した小山明子の特集である。ただし今回は大島作品の上映はなく、松竹大船伝統のメロドラマの典型である清純タイプのお嬢さん女優として売り出した1950年代後半の出演作が中心となる。 1956年、草笛光子、淡島千景、淡路恵子らが相次いで松竹を退社し、翌年には野添ひとみ、岸恵子が抜けて、小山明子には松竹の屋台骨を背負う本格派女優として大きく飛躍する絶好の機会が訪れる。 今回の特集では大ヒット作『君の名は』ばりの生々流転の運命に翻弄されるヒロインを堂々と演じたメロドラマ『花は嘆かず』(1957、監督:田畠恒男)を筆頭に、『大願成就』(1959、監督:生駒千里監督)、『痛快なる花婿』(1960、監督:原研吉監督)などのサラリーマン喜劇やラブ・コメ『花嫁の抵抗』(1958、監督:番匠義彰)など滅多に観る機会のないプログラム・ピクチュアが揃っている。 なかでも注目したいのは、大島渚よりも一期先輩で、当時、松竹ヌーヴェル・ヴァーグの逸材と目された高橋治の撮った二本のサスペンス映画である。どちらも共同脚本に田村孟が加わっている。 高橋治のデビュー作『彼女だけが知っている』(1960)は、刑事を父親に持ち、その同僚の若い刑事と婚約している小山明子が、連続暴行魔に襲われ、その傷痕が癒えぬままに、捜査に協力を求められて苦悩するヒロインを果敢に演じている。まさに今日的でアクチュアルなテーマに挑んだ小山明子は、終始、寡黙に屈辱に耐えている表情、その端正な冴え冴えとした美貌が際立っていた。 『死者との結婚』(1960)は、ウィリアム・アイリッシュのミステリの映画化。男に棄てられて自殺しようとしていたヒロイン小山明子が船の遭難事故に巻き込まれ、乗り合わせた亡くなった新婚夫婦と取り違えられ、大富豪一家に成りすまして、莫大な遺産を相続するが……といういかにもアイリッシュ好みの憂愁に満ちたサスペンスものである。前者は中村八大、後者は前田憲男のクールなモダンジャズの魅力全開で、さらに両作品とも陰影に富んだ川又昂のキャメラが素晴らしい効果を発揮している。 高橋治はのちに小説家に転身し、『風の盆恋歌』『絢爛たる影絵──小津安二郎』などで知られる直木賞作家として文壇でも重鎮的な存在となった。40年ほど前になるが、『月刊イメージフォーラム』の編集者時代に、高橋治に短い原稿を書いてもらったことがある。その時、「最近、ミケランジェロ・アントニオーニのすごさが、ようやくわかってきた」と呟いたのが印象に残っている。そういえば、この二本の作品における小山明子はどこか『情事』(1960)や『太陽はひとりぼっち』(1962)のモニカ・ヴィッティ風なアンニュイが感じられないでもない。