Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

映画から自分の心を探る学びを

伊藤 さとり

映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)

葬送のカーネーション

紛争で両親を失った少女と、逃れた先のトルコで妻を亡くした祖父が、祖母の遺体を祖国に埋葬すべく棺桶を引きずりながらトルコの南東部を歩き続ける物語。そのセリフ量は極小と言える。祖父は寡黙、少女も無理に交流しようとしないので淡々と旅する中で、出会う人との会話やすれ違う人への視線で、ふたりがどんな思いを抱いているのかがかすかに見えてくる。 難民や移民についての映画が昨年も多く公開された。記憶に新しいもので言えば、ベルギーのダルデンヌ兄弟の『トリとロキタ』は幼い移民の子供たちの苦難を描き、イランのジャファル・パナヒ監督の長男パナー・パナヒ監督による『君は行く先を知らない』は家族で旅する先にある息子が国境を越える物語だ。彼らの困難は一体誰が作ったのか、それは彼らではなく明らかに国なのだ。ふと祖国に帰りたいと思えど、そう簡単には戻れない人々が難民や移民だ。また紛争で親や子を亡くした人々がいるのも事実。本作では少女と親がどうやって暮らしていたのか、どんな別れを体験したのかも描かれていない。同時に祖父が妻とどんな会話を交わしたのかといった回想シーンもない。建物がほぼ無いと言える道をただひたすら歩く年齢の違うふたりの表情は無のようで、喜びや悲しみや怒りを読み取る事さえできない。時折、映し出される夢か想像かのようなショットから彼らの願いを読み取る手法。広大な大地をロングショットで見せるふたりの途方もない旅は、言葉にならない余韻となって私たちの心に刻まれるだろう。

24/1/10(水)

アプリで読む