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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

身代わり忠臣蔵

「時代劇の東映」と呼ばれた時代があったが、その東映が45年ぶりに製作した忠臣蔵映画。 いまさら忠臣蔵なんて、という雰囲気だから、ひとひねりしないと企画として通らないのだろう。吉良上野介にそっくりな弟がいて、身代わりになる話だ。忠臣蔵のパロディとも言えるが、随所に皮肉がきいていて、単なるお笑い劇にはしていない。 全体に画面は明るく、昔の明朗時代劇っぽい。テンポも早く、2年弱の物語を一気に見せる。 主演のムロツヨシや大石内蔵助を演じる永山瑛太は、従来の吉良と大石のイメージからすると若すぎるのだが、それがかえって、青年の苦悩のドラマっぽくなっていて、人間としてしっかり描かれている。 クライマックスは、筒井康隆の短編『万延元年のラグビー』とそっくりなのだが、これはわざとなのだろうか、それとも偶然か。 注目すべきは、出番の少ない浅野内匠頭を、歌舞伎俳優の尾上右近が演じていることだ。右近の母方の祖父は、かつての東映任侠映画のスター・鶴田浩二である。1960年代に入ると時代劇がすたれ、東映は任侠映画に移行するのだが、その柱であった鶴田浩二の孫が、めぐりめぐって東映時代劇に出ている。 さらに尾上右近は、大正から昭和にかけての名優・6代目尾上菊五郎のひ孫でもある。6代目菊五郎は『仮名手本忠臣蔵』では判官(史実の浅野内匠頭)が当たり役だった。以後、この家の役者は『仮名手本忠臣蔵』では、判官と早野勘平を演じている。 右近は当然、それを意識しているだろう。全体にコメディタッチの映画だが、右近だけが伝統的時代劇として演じ、短いシーンではあったが、浅野内匠頭の無念さが伝わる。 いつの日か、右近が歌舞伎座で『仮名手本忠臣蔵』の判官を演じる日がくるのを期待したい。

24/2/9(金)

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