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ジェラール・フィリップと忘れじの名優たち

映画

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映画の世界には時代ごとに美男子数あれど、とりわけクラシック映画においては、今どきの「イケメン」のような軽い形容では断じて片付けられない男優たちがいる。フランス映画では、37歳を目前にして1959年に亡くなったジェラール・フィリップにとどめを刺すだろう。『花咲ける騎士道』の“チューリップの騎士“ファンファン、『赤と黒』のジュリアン・ソレル役など、気品ある演技は日本の映画ファンの心も瞬時につかんだ。ただ『モンパルナスの灯』は、病める画家モディリアーニの伝記なので仕方ないとはいえ、その演技が彼自身の夭折とどうしても結びついてしまう。筆者には、彼とこの監督ジャック・ベッケルの早すぎる死が、フランス古典映画の終焉を象徴しているように思われてならない。 ジェラール・フィリップは、1953年秋、日本で初めてのフランス映画祭に使節団のひとりとして夫人と来日している。対面した高峰秀子はその優雅さとデリカシーに感銘を受けた一方、香川京子はフィリップ夫妻の飾らない物腰に「普通の結婚」をした大スターへの好感を抱く。それは実は意外なことではないようだ。彼は来日中、社会の暗部をえぐる独立プロの作品を中心に15本近くの日本映画を見て、帰国後に日本のリアリズム映画の豊かさについて報告をしたという。つまり彼は、演劇・映画の貴公子というだけではない、政治と芸術について進んで物を言う戦後第一世代の一青年でもあった。 展覧会はその短い生涯を、彼の出演作を数多く輸入した東和映画の旧蔵資料や、後年その仕事を情熱的に紹介した配給会社の所蔵品を用いて丁寧にたどっている。フランス映画美術の巨匠レオン・バルサックや衣裳デザイナーのロジーヌ・ドラマールのデッサンなどはこの館ならではの贅沢な展示だ。フィリップ夫妻から東和の川喜多夫妻に送られた手紙にも感じ入るが、中央の空間は東和の社員にして名ポスター画家だった野口久光の名作展示コーナーの趣もある。若き日にパリ国立劇場の専属写真家だったアニェス・ヴァルダが撮った彼の舞台写真も見逃せないし、最後には訃報を一面トップに載せた「フランス・ソワール」紙の記事が…。 スクリーンの中と、時代を生きた青年としてのジェラール・フィリップの両方に出会える好企画である。