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水先案内人のおすすめ

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ユニークな選択眼!

春日 太一

映画史・時代劇研究家

ビニールハウス

観終えて、とてつもなく重いものがのしかかってくる作品だ。かなり精神的にえぐられる。そのため、できるだけ心身ともに元気な状況で臨むことと、観賞後に気分転換できる術をあらかじめ用意しておくことをオススメしたい。 ビニールハウスに暮らし、老夫婦の訪問介護で生計を立てる中年女性が主人公。彼女にとっての希望は、少年院にいてもうすぐ出所する息子と暮らすこと。老夫婦の妻は重い認知症を患っており主人公に攻撃的な一方、夫は視力を失い認知症の初期症状ではあるものの優しく接してくれる。そして主人公自身の母親も認知症のため施設に入れられていた。 本作は、以上の設定を完璧に活かして、隙のない物語を構築している。この設定から個々の登場人物に対して考えうる、最も不幸な展開が待ち受けているのだ。 そして素晴らしいのは、重苦しい内容でありながら、そのサスペンスフルな刺激に貫かれ、片時も退屈しないことだ。主人公は幸福な未来のため、ある嘘を作り出す。それが何度も露見しそうになるのだが、この度にヒッチコック的なシチュエーションと演出が待ち受けており、ハラハラドキドキの緊迫感が連続するのである。 そして、全ての危機を切り抜けて迎えるラストが圧巻だ。 少し前から不穏な予感をかもしつつ訪れるのは、ただ呆然とするしかないラストカット。全身にまとわりつく重みを残して、観客は現実へと投げ出される。こういう悲劇が好きな身からすると病みつきになりそうな、潔いまでの突き放しぶりだった。

24/3/12(火)

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