Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

スリル&サプライズ映画の専門家

高橋 諭治

映画ライター

ビニールハウス

1994年生まれのイ・ソルヒ監督が長編デビューを飾ったこの韓国映画は、いわゆる“雪だるま式”のサスペンス劇だ。登場人物のふとした選択や不運な偶然のめぐり合わせが積み重なり、取り返しのつかない負の連鎖が勃発するという構造の物語である。コーエン兄弟の『ファーゴ』なんかがその典型例だ。 本作の凄いところは、そうした作劇を孤独、貧困、認知症といったリアルな社会問題に適用したことだ。訪問介護士の主人公ムンジョンは善良な中年女性なのだが、よかれと思った彼女のあらゆる言動が裏目に出て、周囲の人間たちの人生までも破滅的な事態に突き進んでいく。また、前述の『ファーゴ』がそうであったように、悲劇が喜劇に転じる二重性も雪だるま式サスペンスの特徴だが、イ監督はあっと驚く“人間すり替え”のエピソードをユーモアたっぷりに描出。よくもこんな奇抜なアイデアを実践したものだと感嘆せずにいられない。 露悪趣味に陥るのを注意深く避けた語り口の繊細さも見逃せないが、ささやかな幸せを探し求める主人公の行く手には、筆者のようなバッドエンド映画好きの観客さえも言葉を失う壮絶な結末が待っている。ちなみに本作の宣伝素材には「半地下はまだマシ」という惹句が添えられているが、まさに言い得て妙。早くも今年屈指の名キャッチコピーと認定したい。

24/3/20(水)

アプリで読む