ファティ・アキン監督は、ダイナミックな画作りが絶妙だ。そして自分が興味を持てなさそうな人物の映画を、「履歴書」ではなく、ロードムービーのように内面を行動で見せつつ綴る事で、観客はあっという間にその人物に釘付けになってしまう。過去作の『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』しかり、今回の実在するドイツの有名ラッパー「カター」も、コカインの売人、金塊強盗と決して善人ではない、いやむしろ悪人である人物なのに、そのカリスマ性をキャスティングと出会った人との対話シーンで表現しているのが絶品だ。
しかも冒頭、紛争映画か?と思いきや、ストップモーションを用いた記憶の断片を導入し、一気に過去へと戻っている構成の素晴らしさ。やがてクラシック音楽の映画のような色合いを見せ、突如、ギャング映画へ、そして音楽製作の映画へと進化を遂げる。カメラワークも音楽の使い方も大胆不敵。それがこの人物「カター」そのもののようで、映画全体がカリスマ性に満ちていた。