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小林信彦セレクション『決定版 世界の喜劇人』刊行記念 ザッツ・コメディアンズ・ワンス・モア!

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このたび『決定版 世界の喜劇人』(新潮社)の刊行を記念してシネマヴェーラ渋谷で小林信彦が厳選した喜劇映画の特集が組まれる。小林信彦の数多ある喜劇人に関する著作の中で、もっとも息の長い名著といえば、やはり『世界の喜劇人』にしくはない。 なにしろ本書の原型となった『喜劇の王様たち』(校倉書房)が刊行されたのが1963年である。その後、大光社(『笑殺の美学』)、晶文社、新潮社と版元を変えながらも、一冊の映画評論集が60年という歳月を超えて復刊されるというのはやはり尋常なことではない。 今度の決定版では新たに「ロマンティック・コメディの出発」「ルビッチ・タッチのお勉強」「ウディ・アレンを觀続けて」、そして「その後の〈世界の喜劇人たち〉」の章では、「『進めオリンピック』のおかしな世界」「レオ・マッケリイの傑作『新婚道中記』」などのエッセイが加わった。とりわけ、この数十年のあいだに、DVD、衛星放送などで容易に見られるようになった1930〜40年代の〈スクリューボール・コメディ〉への言及が目立つのが大きな特徴といえようか。 当時も今も他の追随を許さぬ本書のオリジナリティは、ヒューマニズムとペーソスの偉人として奉られていたチャーリー・チャップリンを「異端者チャーリー」と断定し、一方で、不当に忘れ去られていたマルクス兄弟のアナーキーでナンセンスな笑いをいち早く再評価したことである。 今回の特集でもチャップリンは短篇『醜女の深情け』が一本だけで、あらゆる意味でチャップリンの対極にあった天才バスター・キートンのほうは『キートンの文化生活』『キートンの船出』『キートンの警官騒動』『キートンのハイ・サイン』『キートンの探偵学入門』『キートンの大列車追跡』『キートンの蒸気船』と短篇、長編の代表作が網羅されている。なかでも、『キートンの探偵学入門』は、ウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』の大いなる霊感源となったメタ・フィルム的な構造を孕む傑作である。 小林信彦がウディ・アレンの最高作と称揚する『ハンナとその姉妹』のラストで、意気阻喪に陥った主人公のウディ・アレンが、映画館でマルクス兄弟の『我輩はカモである』を見ながら生きるポテンツを回復するシーンがある。 私は封切り時に『ハンナとその姉妹』を見ながら、劇場のスクリーンいっぱいに映し出された『我輩はカモである』のバーレスクなフィナーレの異様な迫力に圧倒された記憶がある。その狂騒的なバカバカしさは、絶対にスクリーンでしか味わえないと実感させられた。今回の特集は『我輩はカモである』以外にも『けだもの組合』『いんちき商売』『御冗談でショ』『オペラは踊る』『マルクスの二挺拳銃』『マルクスのデパート騒動』と〈初期マルクス〉を中心にプログラミングされており、その狂った笑いを堪能できるだろう。 日本では今だに評価が曖昧なままであるW・C・フィールズ主演の『進めオリンピック』は、小林信彦が〈意外性ギャクがストーリーを作っていく〉と絶賛した珍品で、なかなか見る機会のない映画だけに、オススメしておこう。