『かくしごと』を観ている途中から「映画はキャスティングだな」と、そんな当たり前のことを改めて強く思った。俳優陣が魅力的だ。特に、主人公の絵本作家・千紗子役の杏の表情、仕草、声に魅せられた。セリフでは表現されない心情が、繊細な演技で雄弁に伝わってくる。各キャラクターの造形が際立っているからだろう。たとえ、物語の細かな筋を追い切れなくても、登場人物の動きや会話に接しているだけで幸せな気持ちになる。感情移入できる。
千紗子は、疎遠だった父(奥田瑛二)が認知症になったため、緑豊かな故郷に一時的に帰ってきた。山間の一軒家で、元教師で頑固な父との生活が始まったが、ある日、道に倒れていた少年を介抱する。少年は記憶がないと言い、身体には虐待の痕があった。息子を亡くしていた千紗子は少年に自分が母だと嘘をつき、一緒に暮らし始めたが……。
“かくしごと”が、不穏な空気をまといながら人と人を繋いでいく展開が興味深い。ばれないか……そんなサスペンス感も本作の醍醐味だ。
観客の心を最も揺さぶるのはラストだろう。ただ、個人的に惹かれたのは千紗子と父が距離を縮めるシーン。関根光才監督はどんな演出をしたのか。ぜひ確かめてほしい。