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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

ソウルの春

政争や政治家の権力闘争、その暗闘を描いた「ポリティカル・ムービー」の傑作群を世に送り続けている韓国映画。例えば『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017) 『KCIA 南山の部長たち』(2020) 『偽りの隣人 ある諜報員の告白』(2020) 『キングメーカー 大統領を作った男』(2021)などなどのタイトルがすぐ思い浮かぶ。映画ではないが、ソウル市長選の舞台裏を描いた昨年の配信作品『クイーンメーカー』(Netflix)を、手に汗して観ていたことを思い出す。 なぜ、政治をテーマにした作品になると韓国の映画人やテレビマンのボルテージはかくも上がるのか。その現象を真剣に考察すれば立派な「韓国人論」になると思うがそれは別の機会に譲るとして、今年もスリリングですごい「ポリティカル・ムービー」がやってきた。そのタイトルは『ソウルの春』。もちろん1968年のチェコスロヴァキアで起きた民主化運動「プラハの春」を意識しての命名だ。 舞台は1979年のソウル。パク・チョンヒ(朴正煕)大統領が中央情報部部長に暗殺された歴史的大事件(その顛末は『KCIA 南山の部長たち』で描かれている)の直後に起こった将校によるクーデターの一部始終が、リアルに、サスペンスフルに描かれる。主人公は保安司令官チョン・ドゥグァンと、彼の軍事独裁を阻止しようとする首都警備司令官イ・テシン。軍事独裁を目指す者と民主化を実現しようとする者の壮絶な権力闘争が見どころだ。 媒体資料には、「一部フィクションを交えている」と書かれているからふたりの暗闘が史実そのものとは思わないが、保安司令官のモデルは、韓国憲政史上悪名高いチョン・ドゥファン(全斗煥)。大統領誕生の陰に、そのような武力衝突があったのかと驚かされるシーンの連続。 韓国でもその歴史を知らない若者たちが多いようで、最終的には国民の四人にひとりが劇場に足を運び、『パラサイト 半地下の家族』を上回る1300万人以上の観客動員を記録。コロナ禍以降の劇場公開作品としてはNO.1(2024年3月末日現在)となるメガヒット作、と媒体資料は伝えている。 ドゥグァン保安司令官には『工作 黒金星と呼ばれた男』のファン・ジョンミン、対するイ・テシン役には『無垢なる証人』のチョン・ウソン。監督は『アシュラ』でふたりと組んだキム・ソンス。軍事独裁政権は慶尚道出身の武闘派将校の秘密組織「ハナ会」によって成就したとするキム・ソンス監督。政治家の理念や軍人の使命よりも、地縁血縁を優先させる韓国社会を批判した本作の指摘は、優れた「韓国人論」になっていると思う。

24/7/19(金)

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