水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

映画から自分の心を探る学びを

伊藤 さとり

映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)

至福のレストラン/三つ星トロワグロ

レストランのドキュメンタリーならば、料理をしっかりじっくりと映すのかと思いきや、本作はレストランを経営するオーナーシェフを中心とした料理にまつわる人々の姿を撮らえた4時間に渡る職人映画だった。 そこはやはり『パリ・オペラ座のすべて』や『ボストン市庁舎』他、数々のドキュメンタリーを通して人々を見つめてきたフレデリック・ワイズマン監督らしく、最高峰と言われるレストランの魅力は「人」なのだと言わんばかりのドラマになっている。 しかもワイズマンが惹かれた三つ星レストラン「トロワグロ」は、黒いスーツに身を包んだホールスタッフが居るわけでも、高級感漂う内装でもない。穏やかな村に佇むこじんまりとしたホテル型のレストランで、開放的なホールと、セーター姿のソムリエやスタッフが客と会話をしながら料理を楽しむ。それだけでなく、オーナーシェフまで席に立ち寄り、会話を楽しむのだ。 こんな珍しいスタイルのレストランの厨房では、料理への飽くなき探求が繰り広げられる。素材にこだわる料理人は、ファームやチーズ工房にも足を運び、より良い味と出会う為に学びを忘れない。人との会話から生まれる発見が、新たな料理になり感動を生む。映画が始まった瞬間、観客は自然豊かなフランスの村へ行った感覚にとらわれる。そしてレストランのスタッフとして、食の学びと料理作りを技術体験するのだ。これは今までにないドキュメンタリー体験。だから数多くの映画賞を受賞したのだと唸った。

24/8/27(火)

アプリで読む