二つの季節しかない村

トルコの巨匠、ヌリ・ビルゲ・ジェイランの映画は、長く、暗いというイメージゆえに観るまでに覚悟を要するが、一旦観始めるとそんな先入観は吹き飛んでしまう。とくにスリラーと言える本作のテンションは尋常ではない。 目を掛けていた生徒に告発される教師サメット、縦社会のなかで上にへつらう卑屈な校長、テロで片足を失った闘争的な女教師ヌライら、小さな村の小さな社会にも拘らず、エゴがぶつかり合い、疑念と嫉妬が渦巻く。そんな彼らに重く降りかかる雪。 　 ジェイランの演出は殺伐とした冬景色から、登場人物の些細なジェスチャー、視線など、画面の細部まで計算され、そのセリフは饒舌に見えてピンポイントで相手に突き刺さる。クライマックスのサメットとヌライの議論の場面では、会話が白熱した折、サメットがいまにも人を殺さんばかりの眼差しをヌライに向ける。その狂気じみた一瞬に、胸を貫かれる気がした。