近年韓国の近現代史ものの傑作が相次いでいるが、金大中拉致事件(1973年、映画『KT』)、朴正煕大統領暗殺(1979年、『ユゴ 大統領有故』『KCIA 南山の部長たち』)、その後の軍事クーデター(1979年、『ソウルの春』)、光州事件(1980年、『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』)など、傑作が描いてきた韓国を揺るがす事件が、このドキュメンタリーを観ることによって一本の線になる。
金大中は1971年の大統領選では現職の朴正煕に「約95万票差」で迫るなど、野党の代表的な政治家として活躍したものの、朴正煕や全斗換など当時の政権に何度も投獄され、暗殺工作、拉致、死刑判決などを経験した。まさに韓国民主化のアイコンのような存在であり、ドキュメンタリーとして製作してこれだけドラマティックなものになる首相が日本にいるのだろうかと考えてしまう。
デモを行う民衆の「金大中」コール、光州に赴く金大中をホームで迎える人々の嬉しそうな顔、光州の人々を目にして思わず嗚咽が漏れる金大中。エネルギッシュな彼の人柄と激動の人生を丁寧に掬い取ったからこそ、終盤は韓国映画ファンなら泣かずにはいられない。