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小さくとも内容の豊かな展覧会を紹介

白坂 由里

アートライター

kanzan Curatorial Exchange 「生き延び」vol.3 緑の日々|上原沙也加

沖縄の写真家・上原沙也加の個展が開かれている。彼女が撮る、見過ごしてしまいそうな街の風景には、歴史の記憶が地層のように折り重なっている。写真集『眠る木』(赤々舎)に収められた沖縄の写真は、バスで移動し、歩き回りながら撮ったという。写真を撮るようになってから自身の眼の解像度が上がり、今はのどかな、あるいは開発された風景にも戦時や戦後の痕跡が重なって見えるようになったと聞いた。 今回の個展「緑の日々」は、そうした沖縄の写真にもつながるような、台湾に滞在して撮影した写真で構成されている。今年の「VOCA2024」奨励賞や大原美術館賞を受賞した「幽霊たちの庭」とMISA SHIN GALLERYでの個展「緑の部屋」と蝶番のような関係にあるという。 白色テロや日本統治下時代の痕跡。アメリカンハウスをリノベーションしたカフェなどは沖縄を想起させる。沖縄でも見かける百日紅の木は、中国原産だという。ジェンダーや植民地の不公正な関係、その痛みと向き合う。この場所にどのような時間が流れてきたのか。上原は、写真を撮るだけでなく、撮った後に見返す行為を大切にしている。その時間を通じて、自分では経験することのできない過去の出来事や他者の記憶を手繰り寄せてきた。 近年、南西諸島では、台湾有事という“仮想”のもとに米軍基地や自衛隊基地が配備され、軍事化が進んでいる。観光地だけを歩いていると気づけない、いつか塗り替えられてしまうかもしれない古い建物や路地裏の風景。小さな視点から自分の言葉で語られる作品を何度も見返し、現実の風景を観る目も上げていけたらと思う。

24/11/22(金)

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