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水先案内人のおすすめ

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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

はたらく細胞

体内の細胞を擬人化して、人体のなかで起きるさまざまなトラブルというか事象を描くコミックが原作。教育マンガ的側面もあるが、そう堅苦しいものではない。だから人気があってアニメにもなり、スピンオフもたくさんある。しかし、それを実写化すると知って、大丈夫かな、と思った。 マンガやアニメだから、赤血球や白血球でもキャラクターになるが、それをリアルな人間が演じて、はたして、見るに耐えるものになるのか、疑問だったのだ。 ところが予告編を見て、赤血球の永野芽郁と、白血球の佐藤健が、あまりに原作のコミックやアニメのイメージ通りでありながら、ちゃんとした映画になっていそうなので、驚いた。そして、本編を見て、さらにびっくり。 人間の体内を、普通の世界(という言い方も変だが)にして、いい細胞も悪い細胞も、すべて人間が演じるという、小学校の学芸会の演劇なら、微笑みながら見れるかもしれない設定を、それなりに巨額の製作費と、一流の俳優で、まじめに撮っている。俳優たるもの、どんな役でも演じなければならいが、細胞の役なんて、バカらしくてやってられるかと思いそうなものだが、みな実に真摯に取り組んでいる。 とんでもない設定でありながら、この映画は、見事な戦争映画だ。佐藤健演じる白血球は最前線で闘う兵士であり、永野芽郁演じる赤血球は、いわば看護兵。背景は、いかにも作りものっぽいのだが、世界観にゆらぎがないので、不自然さは感じない。架空戦記でありながら、いや、だからこそ、ひとりひとりの細胞たちのキャラクターがしっかりと描かれ、ある種の感動を呼び起こす。 何のために戦うのかは分からない。とにかく世界は危機に瀕しているのだ。世界の各地で戦争があり、兵士たちのみならず、市民も殺されている、その、自分の意思ではない戦いと死すら想起させる。 この体内の戦争と、現実世界での、阿部サダヲ演じる父と芦田愛菜演じる高校生の娘のホームドラマが同時に進行する。こちらは、あまりにベタな展開で恥ずかしくなるが、その父娘のドラマを、ひねったりせず正攻法で描いていて、体内での壮絶な戦闘シーンでの緊張を和らげる。本当は、この父娘の状況のほうが深刻なのだが。 チラシや予告を見て、ふざけた映画だと思う人もいるかもしれないが、騙されたと思って見て、損はないと思う。身体の仕組みもよく分かるという意味では、「面白くてためになる」映画なので、ファミリー向きでもある。

24/12/5(木)

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