ハートフルで分かりやすく、どの人種にもすんなり受け入れられる選挙の学びと平和を説明する映画に出会ったのは初めてだった。ブータンの村人たちが初めて選挙に参加することになり、そのタイミングで銃コレクターが村にある貴重な銃を求めてやってくるというシンプルなプロットで展開されるハートフルコメディ。
劇中、選挙での討論の練習で村人達が反論し合う姿を目にした老女が口にする「こんな争いはこの村には必要ない」という言葉。物語では選挙運動をする父親のせいで子どもが学校でいじめられていると嘆く母親の姿も映し出される。何かを議論することで分断を生むのではと不安を抱える人々の意見もわからないでもない。
しかし国民が自分たちの国の行末を担う代表を決める選挙は、彼らの未来を彼らの票で決められる権利だ。確かに議論慣れしていない人にとっては、人間関係を悪くするものと思うかもしれない。しかし、自分の意見を口にし、他者の意見にも耳を傾けることは大事なのだと映画では伝えている。それを踏まえて、本作を観ると、他国のことでは済まされない題材だと改めて気づく。今、平和な生活を送る人は、選挙の価値に気付きづらいという事実と共に、どうやって気付かせるかまでを平和的に伝える脚本だった。ブータンの人々が大切にしてきた歴史と信仰から、新たな気づきを持たせる方法は、全人類に有効かもしれない。心底、チャーミングな映画だった。