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芸術・歴史的に必見の映画、映画展を紹介

岡田 秀則

国立映画アーカイブ主任研究員

映画字幕翻訳の仕事 ──1秒4文字の魔術

映画は、その歴史の始まりから、製作された国で見られるのは勿論、国際的な流通を運命づけられている。だからどの国も、一度映画を輸入したらどうにか外国語の文を観客に理解させねばならない。無声映画の時代が終わり、俳優がセリフを言い始めるや否や、言葉は大量になった。自国語への吹き替えをメインとする国、各劇場がアナウンスで翻訳文を囁く国もあるが、日本の場合は一途に「字幕」を選んだ。そのためにオリジナルな発達を遂げた翻訳術、独特の字体の作成術、フィルムへの焼き込み技術などは、どれも繊細極まるものだ。 鎌倉で開催中のこの展覧会は、この着眼点によるおそらく史上初の企画だろう。まず、『天井桟敷の人々』などフランス映画の古典を軒並み手がけた伝説の翻訳家、秘田余四郎の原稿が残っていたことには震えがきた。また、一年だけ映画会社に勤務して台本を翻訳したが、文学的すぎて採用されなかった大岡昇平による『美女と野獣』の台本や、戦後の字幕業界を率いたテトラ社旧蔵のハンガリー製字幕タイプ機(いずれも国立映画アーカイブ所蔵)、そしてこのマシンに一枚一枚セットされる極小の金属板(会場にはルーペがあるので字も読める)も、滅多に見られるものではない。 そして、現在のスクリーン上で頻繁に名を見かける一線級の翻訳家たちによる、日本語になった名セリフの数々や、プロとしての仕事から生まれたとっておきのエピソードにも触れることができる。さらに、字幕翻訳家になりたい人のための往年のビデオ講座も見られる。配給会社と翻訳家の丁々発止のやり取りにも興奮するが、あの特殊な字体を手書きする「タイトルライター」の作業は見ていて脳天が痺れる。勇気あるキュレーションに拍手を送りたい。

25/1/23(木)

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