ロシアの大富豪の御曹司と結婚したストリップダンサー、アニーの現代のシンデレラストーリーは、両親に叱られることにおびえたおぼっちゃまが逃げ出したことで一転。アノーラと屈強な男たちとのハプニングだらけの旅が始まります。強面の男たちを相手に思いっきり叫び、素足でキックをして、絶対に怯まない。戦い続けるアノーラの生命力に巻き込まれて、139分はあっという間。
これまでもセックスワーカーを描いてきたショーン・ベイカー監督の持ち味は、社会の片隅で生きる人たちがチャンスを求める姿にフェアな視線を注ぎ、強さも脆さもひっくるめてユーモアとともに描き出すところ。今回も罵詈雑言が飛び交うカオスなスクリューボール・コメディに、何度も吹き出してしまいました。だからこそ胸に突き刺さるのは、終盤の展開のコントラスト。ラストのアノーラの行動がやるせなく、彼女を抱きしめたくなるような余韻が残ります。アノーラをエネルギッシュに演じたマイキー・マディソンはもちろん、人間の善なるものを信じさせてくれるようなユーリー・ボリソフも忘れられない俳優に。享楽的で刹那的なラスベガス、侘しく美しいコニーアイランド、そして最後の雪景色。アノーラの心理と重なる風景を豊かに映し出した映像にも、心を奪われました。