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監督、役者に着目して選んだこの映画
樋口 尚文
映画監督、映画評論家
監督・野村芳太郎が描く、作家・松本清張の世界
25/3/1(土)~25/3/14(金)
新文芸坐
このたび松竹ではかつて大ヒット作を連打した看板監督・野村芳太郎の再発見プロジェクトが始動。その第一弾が私の新著『砂の器 映画の魔性 ──監督野村芳太郎と松本清張映画』(筑摩書房)の刊行とそれを記念しての新文芸坐での野村=清張作品特集上映である(今後は特設サイトの開設から秘蔵作品の配信などが続く)。野村芳太郎監督は元松竹蒲田撮影所長の野村芳亭監督を父にもつ映画界のサラブレッドで、助監督時代も黒澤明監督をして「日本一の技量」と称揚され、生涯に88本にも及ぶ松竹作品を遺した。そのプログラム・ピクチャーの担い手としてサスペンスからメロドラマ、喜劇まで何でもそつなくこなす多彩さゆえに、旗幟鮮明な作家監督に比べて未だ評価が追いついていない感がある人気監督である。『砂の器 映画の魔性』では脚本の橋本忍の構想の「奇抜」を野村監督の演出の「緻密」が相互補完して『砂の器』というユニークな巨篇を生んだプロセスを、野村監督が遺した厖大な現場資料をもとに解き明かしているが、調べるほどにその大枠での豪胆さと細部の処理の繊細さには驚かされる。ぜひこの機に本と映画で野村監督の秘めしポテンシャルの凄さを味わっていただきたい。
25/3/1(土)