北村匠海が当たり散らす演技に釘付けとなった。こんなにじっとりとした役が上手いなんて思いもよらなかった。それに伊藤万理華も正義感の根底に愛憎が垣間見られる表現が絶妙だ。窪田正孝も河合優実も相変わらず見事だし、何より竹原ピストルが役にハマりすぎて生々しかった。箭内夢菜の迫力も凄まじいし、毎熊克哉も木南晴夏も場をさらう。とにかく画面に登場する俳優すべてが独自の演技を見せる。いったい何なのだと思いながら、作品を見届けて気づいたのは、城定秀夫のじわりと見つめる演出と、そのテンポに寄り添うカメラワーク。そして向井康介によるどこまでが脚本でどこからがアドリブか分からないナチュラルな会話の力もあるのだ。
もちろん、染井為人の人間の描き分けが素晴らしいから登場人物が映像に映えるわけで、人間の弱さを根底から書き進めた筆の力が本作の魔力と言えよう。しかも悪い人間しか出てこないし、セリフもそう多くはないのに惹きつけられるのだから、そのキャラクターを俳優陣がよく読み込んでいる証拠だ。イラつくほどの蒸し暑さと台風の季節が訪れる晩夏は、人を狂わせるのかもしれない。その環境と追い詰められた人間の感情がマッチしての後の大乱闘は、危うささえ感じるほどカッコ悪くて人間臭かった。これこそ映画表現なのかもしれない。画から読み解く人間の業、それを観客がどう受け取るか。普段生活していたら見なくても良い、ある一部の人間の命懸けの人生の駆け引き。しかし現実でも似た出来事は起こっているに違いないと思わずにいられなかった。