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白坂 由里
アートライター
横浜美術館リニューアルオープン記念展 おかえり、ヨコハマ
25/2/8(土)~25/6/2(月)
横浜美術館
リニューアルを終え、2月に全館オープンした横浜美術館。親しみやすい「じゆう広場」へと変わったグランドギャラリーの大階段で、檜皮一彦に委嘱制作した新作《walkingpractice / CODE: OKAERI [SPEC_YOKOHAMA]》が展開されている。車椅子ユーザーでもある檜皮が、みなで「同じ景色」を見るためにスロープをデザイン。横浜の街を歩き、ネガティブな存在である障害物に花を咲かせる映像作品も展示している。障害物とは、階段や勾配、路面の凹凸など、移動を制限するものを指すが、檜皮に聞くと、横浜市内はバリアフリー化が進む、移動しやすい街だったという。建物や街への視点を変える作品でもある。 また、コレクションを中心とした展示では、写真家の常盤とよ子に惹かれた。アナウンサーだった常盤は、後に夫となる写真家・奥村泰宏と出会い、写真家の道へ。戦後、米軍占領下の横浜を撮影して歩いた。常盤は、赤線地帯に出かけ、最初は隠し撮りから次第に室内に入り、院内の待合室などでも近い距離でカメラを向けるまでになる。空襲で父を亡くしたことから、撮り始めた頃は米軍や彼らを相手にする女性たちへの憎しみを秘めていたというが、やがて自分が「働く女性たち」にカメラを向けていたことに気づく。他に野毛山プールの女子プロレスラーなど、戦後を生き抜いた女性たちの存在が記録されている。 一方、日本人女性と交際して子どもを得ながら、養育を放棄して帰国した占領軍兵士も多かった。こうした子どもたちを保護し育てた中区山手町の「聖母愛児園」で、奥村が撮影した子どもたちの写真も展示されている。歴史の光と影に等しく目を向けた、ホントの意味での祝祭的展覧会。
25/3/29(土)