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政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
フロントライン
25/6/13(金)
新型コロナウイルスが日本にも伝わり、最初の大きな事件となったのが、豪華客船「ダイヤモンドプリンセス号」を舞台としたものだった。 その客船で、最前線として戦った災害派遣医療チームの物語で、事実に基づいたフィクションとのことだ。 主人公は、医療チームのリーダーと厚労省の若手官僚。それぞれを小栗旬と松坂桃李が好演。とくに松坂は、映画『新聞記者』やテレビドラマ『御上先生』でも官僚を演じているので、官僚が板についてきた。いまや、日本の俳優で官僚といえば松坂桃李である。官僚特有の欺瞞的微笑の再現に感心してしまう。 小栗はリーダーの役なので、現場で奮闘するわけではなく、アクションは封印。眼の力とセリフまわしで勝負し、これも成功。 豪華客船は広いが、巨大な密室であり、そこでの乗客、乗組員、医療チームによる群像劇でもあり、こんなことがあったのかと驚く。外から見ている報道のクルーも含めて、みなキャラが立っているので、主要人物が多い割には、見ていて混乱することはない。 ダイヤモンドプリンセス号での感染拡大が終息したところで映画は終わるが、それからがコロナ禍は本番だった。映画になりそうな題材は無数にある。その先陣を切った作品である。 とりあえずはハッピーエンドなので、見ていて不快感がない。とくに、国家的危機を描きながらも、総理大臣など政治家が出てこない、まさに、タイトル通り、フロントラインの物語に徹した脚本がすばらしい。
25/4/21(月)