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Tak

美術ブロガー

没後50年 髙島野十郎展

高島野十郎(1890-1975)は、その名が広く知られるようになったのは没後のことで、生前は画壇や団体に属さず独自の道を歩み続けた洋画家です。福岡県久留米市に生まれ、東京帝国大学農学部を首席で卒業した後、画家の道を選びます。自らの内面と誠実に向き合い、名声や流行にとらわれず、静かな情熱で絵を描き続けました。 本展は、油彩や水彩、素描に加えて書簡や日記、写真など約150点を通し、野十郎の画業を多角的に紹介しています。見どころの一つは、彼の代名詞ともいえる「蝋燭」や「月」「太陽」をモチーフとした作品群です。小さな画面に描かれた蝋燭の炎は、暗闇のなかに静かに浮かび上がり、圧倒的なリアリティとともに、画家自身の祈りや感謝といった心情までも伝えてくれます。晩年の「月」の連作では、風景をそぎ落とし、闇のなかに浮かぶ満月だけを描くストイックな画面へと到達し、永遠に消えることのない光の存在を示しています。これら光と闇が交錯する作品は、見る者の心にも静かに沁み入ります。 また、野十郎が各地を旅して描いた四季折々の風景画も本展の大きな魅力です。土地ごとの最も美しい瞬間を見極めて描かれた景色には、自然への深いまなざしと仏教的な無常観が漂います。繊細な筆致と静謐な色彩によって、ただの写実を超えた、時を超えて語りかける精神性が画面に宿っています。 展覧会では、野十郎が時代や人々とどのように関わり、自身の芸術を追い求めたかについても、多彩な資料とともに丁寧に紹介されています。孤高でありながら、家族や友人、作品を大切に守った人々の存在によって支えられてきた姿が浮かび上がります。 晩年を過ごした千葉で開催される本展は、野十郎芸術の核心にじかに触れられる貴重な機会です。蝋燭や月、風景のなかに込められた「消えざる光」と静かな祈り。時代や流行を超え、今を生きる私たちにも深く響いてくる展覧会です。

25/8/2(土)

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